グリーン改造工事完成のご報告     

2019,7月  中田浩人

 

 工事の進捗状況

  改造工事は、2019年1月より着手し、2班がそれぞれに前さばきの撤去班と造形チームに分かれ、順調に工事は流れた。当初予定の施工面積は大きく上回り、予定外のバンカーの改修にも手を付けることができた。それを可能にしてくれたのは、倶楽部のご理解により、管理スタッフやキャディーの皆様による献身的な張芝作業応援を頂けたからに他ならない。比較的天候にも恵まれ3月末にはグリーンはほぼ完成。

以降、グリーン外周の残工事や1番ティーの改修、インのPGとスタートハウス周辺の追加工事に着手。さらに、バンカーラインの微調整や排水不良個所などの細部の見直しを行い、6月末には工事完了となる。

グリーンのロイヤルリンクスセブンの播種は3月26日、27日に行い、10日ほどの間に無事発芽を確認、それから施工箇所の外周エリアを含め養生管理に移行する。7月には4ミリで刈込が出来る状態となり9月オープンに向けて倶楽部管理スタッフとも調整をしながら仕上げは順調に進んでいる。

 

 改造後のコース全体の特徴

  今回の改造は、コースそのものが持つポテンシャルを引き上げることを目標とし、継承された上田治氏の基本形を大きくは変えない方向性の中で工事は進んだ。グリーンは多少手前がカットされ奥にシフトした様になった。見た目の印象、若干強くなったアンジュレーション。今までよりは小さくなったグリーンと、その新グリーンに接近されたバンカーに難しくなったと感じる方は多いかも知れない。

一方で、グリーンが絞られたという景観はターゲットを意識しやすくなったといえる。また、セカンドショットは、『乗せることが出来れば何とかなる、、、』から、ピン位置によっては、『あのバンカーに気を付けてあの当りに乗せておかなければ、、、』というはっきりとした攻略ルートをイメージしやすいデザインとなり、より一層楽しめるコースとなった。その様な意味では戦略性(ストラテジー)は、設計上の厳密な議論は残るだろうが、私的には十分に上げられたと感じている。

グリーンの始まりとエンドライン、幅として両端が出来るだけ分かりやすいように周辺の造形に変化を持たせた。バンカーについては、打ち上げホールや林帯の陰に隠れて見えにくかったものや砂面を隠していた張りを整え、全体的にバンカーは見えやすくなり、ビジターにも分かりやすいコースとなった。また、グリーンからの距離があまりに遠いところまで広がっていた部分をカットし必要以上のハザードエリアを削減すると同時に、深すぎたりオーバーハング的に顎が張りすぎていたものも修正し、必要以上の難度を無くすようにした。それら全体的なプレイヤービリティー(プレーのし易さ)は上がったと思う。

グッドショットの価値を高め、ミスショットのペナルティーは若干増したものの大怪我の可能性は少なくなったといえる。私自身の経験を踏まえれば、グリーン改造等において完成の姿を見ての感想として多くの関係者は口々に、『大分難しくなった』 という意見が大勢を占める。しかし、実際プレーが始まれば、その声はどこかに消え去り、1年もしないうちにメンバーは慣れ、昔の姿は思い出せなくなるものだ。

 

 改造の記録

 特徴的な幾つかのホールについて、何故こうなったのか?について解説をしておきます。

 ゴルフ倶楽部においてパー3ホールの出来栄えというのはコースの良し悪しを左右するほど大きいといえる。4つのパー3がどのような変化を持ち、それぞれの戦略性がいかに豊かであるかは重要なところである。

3番ホールパー3については、砲台の形状に戻したいという倶楽部の意向を踏まえ、以前よりは1m程度グリーン盤は上がり、以前手前にあったバンカーの底のレベルまでグリーン手前を下げることで、エプロンの低い部分からは2.5m程のスロープを駆け上る砲台グリーンとなった。結果的に3mの打ち上げホールとなった。バンカーの配置とグリーンの構成について、最も悩んだホールである。残るパー3ホールを見ると、8番はフラットなストレートロング。12番15番は共にやや打ち下ろしで谷越え。12番は廻りをバンカーで囲む特徴を持ち、グリーンは以前のままの緩く受けた変化の少ない単純な面形成。15番は左奥に傾き右にもバンカーはあるものの主体的には左手前にバンカーの存在感が強い構成で、左後ろに流れ落ちる面形成である。以上を踏まえ、3番だけは逆使いが求められると考えた。打ち上げで右にバンカー、右奥に流れる形状とすることで、バリエーションの変化を生むことができた。

 7番については、当初最も大きな面積を有するグリーンだったのも手伝い、その右側に遠く離れたバンカーが二つあった。奥側は埋める事とし、グリーンに寄せたバンカーに変更し、手前側はFWに近づけIPから見えやすい位置まで出してきた。これによりセカンドショットにおいては明確なコースマネイジメントを嫌が負うにも求めてくるホールとなった。攻めにゆくか?どの当りの手前に残すかのジャッジがこのホールのカギとなる。この7番では3オン2パットのボギーで上出来なホールであり、パーは祝福に値し、バーディーを取れば喝采が沸き起こるといった具合だろう。アウトの山場ともいえる。

 9番ホールは、奥の松林を大きく伐採し、50yd程奥に延伸し、130~150ydの残り距離となった。計画当初よりIPからグリーン面が見えるかどうかという議論があったが、より見えやすくする為に旧ガードバンカーエリアまで施工範囲を広くし撤去した。松の伐採木の選定において、旧グリーン裏に大木があり、残せるものなら残してあげたいという声が上がり、私も賛同し計画の変更をすることとなった。当初はグリーン手前に小さなバンカーを置き、グリーンは左右に傾斜を取る様に考えたが、松を残した高さにおいては手前にマウンドがどうしても残る形状となった為、グリーン手前のバンカーは無くすこととした。松のマウンドからスロープをグリーンに流し込む事で、マウンドの裏側のピンポジションを魅惑的なものにする様に形状の修正をし、IPに対してはっきりとした受けグリーンとした。グリーンバックに池に対する玉止め的なバンカーを配したが、将来的に多少池を縮めるなどの検討が必要かもしれない。

 13番と14番はレイアウト上、ホールの構成は左ドッグレッグでグリーンの両サイドにバンカーのあるホールで共にゆるい打ち下ろしで380yd前後のパー4。この似通った2つのホールを印象的にどう変化を持たせられるかが大きなカギとなると考えていた。13番の左のバンカーは手前から見えづらく3mほど深い。まずそのバンカーを埋める事とした。というのも、若松はもともと2番3番以外のホールで全てグリーンの両サイドにバンカーがあった。少し強めのマウンドを作りラフとした。

14番では現場での作業確認の折、旧グリーンの手前を大きくカットし左手前のバンカーを極力グリーンに寄せるように造形をしていた時の事、そこで出た残土量の多さにスタッフは困惑していた。そこで、作業を中断させ、いろいろな角度から現場を見まわした。一つのアイディアとして、グリーン手前にマウンドを作ることでホールに特徴が出せると考えた。IPからは打ち下ろしであった為、多少のマウンドでもグリーン面を隠すことはなかった。グリーン手前の20~30ヤードを錯覚させる、言わばキツネだましのフォクシーなホールである。ゆくゆく論議を醸し出しそうなデザインではあるが、オブジェとしてもユニークな構成となり、その二つのホールはそれぞれに違った印象を持たせることが出来た。

 18番は当初、近隣への飛球が問題となり、併せて旧サブグリーン跡地がデッドスペースとなっていた。そのエリアまで右側にセッティングを考えていたが、何度考えてもそうすることで今度は左側のスペースが広がり過ぎて、右側への偏り加減が気になった。グリーンは現状の様に縦長が望ましいとも考えたが、グリーンエリアの幅は広すぎるほどあった。よって、計画を変え横長かつ左右の戦略上の違いを持たせるよう考えた。やや角度を持たせ右を手前に少し出した。グリーンのほぼセンターの手前にバンカーを置き、左右に分断し、左が高い明快な2段グリーンにした。左はアプローチエリアを広げグリーン奥をマウンドにしパンチボールでグリーンにボールは転がり戻るようにした。右は手前から砲台となり奥が浅い分、バックはバンカーで止めることとした。2オンを狙うか極力グリーンの近くまで運ぶショットを選択した場合、ピン位置が右と左では状況は大分変わってくる。ピン位置が左でグリーン右に外した場合のアプローチはし易いが、右のピン位置で左に外した場合の難易度は上がるだろう。結果的に広いグリーンエリアは有効にその広さの意味を持つことが出来たと思う。

 

 グリーン改造工事を終えて(感想)

  設計者として、また施工責任者として本プロジェクトに参加させて頂けたことに心より感謝申し上げます。終わらせることが目標でありながら終わってしまうと寂しいものです。工事スタッフは、千葉と三重から精鋭を招集し、県内の土工スタッフにも頑張ってもらいました。倶楽部の方々には全面的に信頼をして頂いたことに感謝申し上げます。現場作業では、キーパーを初めコース管理スタッフの皆様、キャディーの皆様にも慣れない作業を献身的に協力して頂き、非常にいいムードの中、全員一丸となって完成することが出来ました。図面を土壇場で変更したり、重機で土を動かしながら即興的に修正を加えたりと、活気あふれる現場作業となりました。培った経験と新しいアイディアを絞り出す日々は終わりました。予算と工期の板挟みはいつも付き物で、終わってみれば後ろ髪を引かれるが如く、やりきれなかったことやもっとこうしておけばという後悔も、ふとした時に頭をよぎり続ける事でしょう。

今後を見据えるならば、今回触る事が出来なかったコースバンカーについては、今後の課題だと感じます。見えないクロスバンカーや中途半端な距離にあるものなど見直しが必要なものは残っていると感じます。また、林帯整備、ティー、カート道路の整備など課題はまだまだ山積とも言えます。

 

 会員へのメッセージ(コース設計担当として)

お蔭をもちまして若松は生まれ変わることが出来ました。それは長い若松の歴史の1ページにしか過ぎない事とも感じます。改造をして、コースが落ち着いてくるのに3年は掛かり、5年目ぐらいから風合いが出てくるものです。

コースは自然の環境の中にさらされ幾度とない四季を経験する中で、大切にメンテナンスをされながらも、わずかな風化を重ね熟成しながらその姿は徐々に変化してしまう生き物と言えます。どんな美人に育てられるかは倶楽部の今後のコースへの向き合い方に掛かっていると思います。コースはよく自然の中に佇む宝石のようにも喩えられることもあります。この若松がメンバーの皆様にとって大切な宝物として愛されることを願います。