アンジュレーション  Jun 2009

 

 ゴルフの醍醐味はまん丸なボールがアンジュレーションによって、思わぬ方向に跳ねたり、その傾斜の方向を変えながら転がり進むことによって増幅される。同じイギリスで生まれたラグビーは、平らなフィールドに楕円のボールがイレギュラーに跳ねることで、瞬時にして敵のボールが見方に舞い込むハプニングを常に持ち合わせることになる。このことは言われつくされているイギリス流儀のスポーツ精神の象徴的な部分でもあろう。ボールの転がりは不規則であり、プレーヤーにラッキーとアンラッキーを平等に与え、人生の縮図的要素を味わうこととなる。言わば、運という不思議な神の手が作用してしまうのもゴルフの味というところだろう。それを引き起こす一つの大きな要素としてアンジュレーションというものがある。そんな大地のデザインが織り成すアンジュレーションがプレーの中にかくも大きく影響するスポーツはゴルフを持って他にない。 

 

 アンジュレーションは、分水嶺が複数織り成す面の歪みである。水の流れる方向を明確にし、程よく分散される面の複合であり、その大地の秩序となっているものと言える。トップとなる尾根線からボトムエリアへ流れてゆく面によって生まれる。それが複数の折り重なりとなり、一つの景観の中に見えてくるものである。また、勾配の少しの変化によっても、アンジュレーションは生まれるものである。

 

 コースデザインの場合、FWとグリーンのアンジュレーションは基本的に変わるものではないが、グリーンの場合、より微細にすることで面白みを増幅できる可能性を秘めている。また、そのたなびく起伏の大きさがグリーンやフェアウエイのような景観を捉え、それぞれに適正なスケールを保ち、景観性と戦略性を上げるものがよいとされる。

 

 戦略性の高いコースほど、そのアンジュレーションを巧みに利用し、飛距離や方向付けを戦略的に左右させるものとなっている事が多い。つまり、アンジュレーションはスタンスに影響し、ショットをする際の精度を微妙に変化させ、様々な状況をプレーヤーに与えることでゴルフに奥行きを持たせるものといえる。何よりもボールの転がりを演出する元となる。

 

 日本のように多湿で雨の多い地域性においては、雨水桝をこまめに取らなければならない。その桝への水勾配を取りながら整地されることによっても、アンジュレーションは自然に生まれるものである。つまりそれは意図的に取ってしまわない限り、偶発的な副産物である場合も少なくない。バンカーはその影響するラインに上手く当てはめてゆくことで、より自然な存在感を表現できる。曲線のつながりは一筆書きのようにバンカーの織り成す起伏と窪地を溶け込ませるように配されることが望まれるものである。

 

 アンジュレーションをコースの距離的条件や高さの条件に上手く当てはめてゆくことにデザイナーの仕事があり技量が試される。私はそこであたかも自然の気丈が入り込んでくるようなラインを大切にし、必要部分を造りこみ、その他生かす事のできるオリジナルな現地形は極力残しておくべきだと考える。あまり触らず、自然任せということになる。  

 時に自然はいびつなものを形作ってしまうものである。不思議とそのラインはあきが来ないもので、周辺の景観に不思議と収まりがよい。しかし、人工的にブルドーザーで整形されたマウンドや曲面は一見美しいものだが、人工的であることは否めず、見慣れるたびにあきが来てしまうものが多い。自然とは計り知れない尊厳のようなものを持ち合わせ、人の心に入り込んでしまうものだということを忘れてはならない。

 また一方では、人工的に作られたあらゆるものたちも、元来の自然に勝るものではないが、自然環境の中に存在することによって、いつしか自然の一部として飲み込こまれる定めにある。

それらは矛盾するが、私の認識するところである。 

 

 アメリカンスタイルのゴルフコース(アメリカにおけるゴルフブームの中で造られてきたコースの多く)はゴルフが本来兼ね備えていた不確実性を出来るだけ排除し、ナイスショットが、常にまたは正当に報われるべきコースを描き出したと言える。 ショットの機械的な精度を高めることで、ベストポジションが得られ、優れたスウィングをより明快にするためにそのランディングエリアを極力平坦にして、その他の要素をはぶいてゆくことになった。 一方で、プレーヤーに想像力と考える事を奪い取り、困難な状況下からの脱出に奮闘する面倒な作業を排除してゆくことにも繋がった。プレーヤーは機械的なスイングの安定性を求め日々鍛錬を重ねることで、よいスコアーを比較的順当に手に入れることができるようになったと言える。その点において、スコットランドなどのクラシカルなコースとはコース作りのコンセプトは大きく変わってきたと言えるのではないだろうか。USオープンとジ・オープンの違いをそこに垣間見ることが出来る。

   

その対極的なデザインコンセプトにおけるアンジュレーションのあり方もまた、対照的といえる。どちらがよいと言うものでもないであろう。それぞれのゴルフスタイルが楽しめるということであると同時に、そのような志向が存在したということだ。 ゴルフコースにおける『アンジュレーション』のあり方は、微妙にその存在感を表すものだと私なりに解釈している。